A selective insecticidal protein from Pseudomonas for controlling corn rootworms

Science 22 September 2016 DOI: 10.1126/science.aaf6056

http://science.sciencemag.org/content/early/2016/09/22/science.aaf6056.full

 前回、窒素固定する細菌を根に付着させてアンモニアを分泌させ、窒素肥料の代わりとして利用する話を紹介しました。またまた、サイエンスの First Release Science Paper から、植物バイオテクノロジーのお話。Btトウモロコシというのは、Bacillus thuringiensis (Bt)という昆虫病原菌の遺伝子を導入して害虫抵抗性を持たせた GM(genetically modified) トウモロコシ。ところが、Btに対しても抵抗性を示す害虫が。。。例えば rootworm 根切り虫。北アメリカでトウモロコシに大きな被害を与えています。今回の論文は、rootwormに対して殺虫効果のある蛋白質を土壌から採取した細菌群から見つけ出し、それをトウモロコシに組み込む事で、rootwormの食害を防ぐ事が出来たとの報告です。
 そのスクリーニング方法が、真っ直ぐですね。アメリカ各地のトウモロコシ畑から採取した土壌から細菌を単離(どれくらいの種類だったのでしょうね?書いていないようなので分かりませんが。)して、それぞれから蛋白抽出液を調製して、rootworm幼虫に対するバイオアッセイ。高い効果を示した細菌の抽出液からバイオアッセイを指標に精製を進め、最終的に、Pseudomonas chlororaphis という細菌が持つ86アミノ酸からなる小さな蛋白質が最も殺虫効果が高かったとの事。そこで、これを組み込んだ GM トウモロコシを作成。rootworm の食害に抵抗性を示す事を確認できたとの事。同時に、他の蝶やカメムシなどには影響を与えない事も確認(ここのところの確からしさが大切ですね)。これも Btトウモロコシと同様、世界中に広まるのでしょうか。
 発表したのは DuPont の Pioneer 社。Pioneer社といえば、以前、トウモロコシの変異ライブラリーのスクリーニングで一度お世話になったことがあります。その時のスクリーニングも大規模でルーチン化されていて感心したのですが、今回のスクリーニングも、さすが、企業ならではの力技だったのでしょうね。GM植物の是非は別にして、たいしたものです。(M)

(from Fig.2. Root protection from WCR injury by transgenic expression of IPD072Aa in T1 corn plants grown under greenhouse conditions; Science 22 September 2016 DOI: 10.1126/science.aaf6056)

Science Special Issue: Plant Translational Biology

Science 16 September 2016 Vol 353, Issue 6305

http://science.sciencemag.org/content/353/6305

 ひと月ぶりの更新です。このひと月、いろいろありました。9月1〜3日には、新学術領域研究「新生鎖の生物学」主催の国際会議が、山梨県河口湖畔であり、研究室全員で参加してきました。アクセスには時間がかかりますが、とてもいいところですね。会議場の大窓から富士山が一望できる最高のロケーションと、エキサイティングな研究発表に、気分をリフレッシュされましたね。やはり、細胞の仕組みは面白い。まだまだ新しい事、よく分かっていない事が山ほどあって、よく出来てるもんだと感心させられますね。そしてそれを世界で初めて自分の手で見つけた時の感動、達成感。それこそが、私たちを研究に駆り立てるモチベーションになっています。これからもピュアサイエンスに没頭しますよ。生命の仕組みの根幹に迫るピュアサイエンスは、将来的には、アプライドサイエンスに必ず何らかの形で役に立つでしょう。

 さて、先週のサイエンスは”THE NEW HARVEST” と題した植物の利用研究、つまりアプライドサイエンスの特集号。植物の代謝を利用した特徴的な脂質や生理活性物質や医薬品の生産の将来を展望しています。もちろん、バイオマスとしての植物の改良についても。その話題をひとつ紹介しておきましょう。
 植物の生育には、窒素、リン、カリウム、水、など様々な要素が必要です。これらの利用効率の増加は、光合成効率の増加や二酸化炭素固定能の増加とともに、植物バイオテクノロジーのターゲットとなっています。窒素固定を自前で(といっても根粒中に共生させる窒素固定細菌に助けてもらっているわけですが)行う事ができる豆科は別ですが、農作物には通常窒素源をアンモニウム塩の形で肥料として与えています。この肥料中の窒素。実は、高温高圧を必要とする化学合成で作られ、その際大量の化石燃料を消費しています。窒素といえば、大気中に大量に存在するはずなのに。。。 そうです。この大気中の窒素を、豆科だけでなく他の農作物も自前で固定する事ができるようになれば、窒素肥料の使用量を大幅に抑える事が。このような観点から、植物に窒素固定能を持たせようという研究が行われてきました。葉緑体にニトロゲナーゼを発現させれば?でもニトロゲナーゼは複雑な酵素。そして何より酸素に不安定。一方葉緑体は酸素を生み出すオルガネラ。難しいですね。という事で、酸素を呼吸で使うミトコンドリアでニトロゲナーゼを働かせよう、という試みも。
 そんな中、今注目を集めているのは、イネ科などの穀物の根に付着してアンモニアを分泌する窒素固定能を有する細菌、例えば Azospirillum 、の利用。もともとこういう根に付着する細菌は、植物の生育を助ける事が知られていたようです。イネ科モデル植物のSetaria viridis (いわゆるエノコロ草ですね) を用いた実験では、窒素欠乏の土壌でも、この細菌を根に付着させておくだけで、窒素肥料を与えた土壌と同様に良好な生育を示したとか。イネ科穀物だけでなく、様々な農作物の根に付着してアンモニアを分泌するような細菌が安全に効果的に使えるなら、農地に大量の窒素肥料を撒く必要がなくなる日が来るかもしれませんね。(M)

Cotranslational signal-independent SRP preloading during membrane targeting

Justin W. Chartron, Katherine C. L. Hunt & Judith Frydman

Nature Published online: 03 August 2016:
doi:10.1038/nature19309
LETTER

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature19309.html

“We show that the SRP (signal recognition particle) preferentially binds secretory RNCs (ribosome-nascent-chain complexes) BEFORE their targeting signals are translated.

そうなんですか! 真核細胞で小胞体ER膜を経由して運ばれていく蛋白質の多くは、アミノ末端に疎水性のストレッチからなるシグナル配列を付加されて、サイトゾルのリボソームで合成されます。シグナル配列は、シグナル認識粒子(SRP)という蛋白質-RNA複合体に認識されて、ER膜上のSRPリセプターに結合して、輸送装置であるSECトランスロコンへと運ばれていきます、というのは、ノーベル賞をもらったGunter Blobel のシグナル仮説から延々と続く確立されたストーリー。でも、サイトゾルに非常に多量に存在するリボソームに対して、SRPの数は限られている状況で、リボソームから出てくる雑多な新生鎖に対して、いかにSRPが、他の分子シャペロンとの競合に勝ってシグナル配列を認識しうるのか、不思議といえば不思議な話。in vivo では何らかの仕組みがある筈!という作業仮説のもと、筆者らが、リボソームプロファイリングと生化学的手法を組み合わせて解析した結果、導き出したのは、SRPは、シグナル配列が合成される以前から、シグナル配列を持つ蛋白質のmRNA が有する何らかの情報によって、そのmRNAを翻訳するリボソームにリクルートされている! という驚きの結論。論文は ”These findings illustrate the multi-layered nature of protein biogenesis fidelity.” で結ばれています。なるほど、細胞の中というのは、いろんな効率を高めるために、まだまだ隠された仕組みを持っているということの良い例ですね。大腸菌でリコンビナントを発現させて構造解析、なんて実験だけでは、このような細胞内の重要な事象の発見は、無理ですね。細胞内で実際に何が起きているのか、そこを明らかにしていくのが、私たちのグループの研究スタンスでもあります。(M)

Light-dependent chlorophyll f synthase is a highly divergent paralog of PsbA of photosystem II

Science 07 Jul 2016:
DOI: 10.1126/science.aaf9178

Research Article

Ming-Yang Ho, Gaozhong Shen, Daniel P. Canniffe, Chi Zhao, Donald A. Bryant

http://science.sciencemag.org/content/early/2016/07/06/science.aaf9178.abstract

なんとぉっ!! PsbA とは光化学系II の中心にある D1 蛋白質。相同な PsbD(D2蛋白質)とヘテロダイマーを作って光化学系IIの反応中心を構成しています。クロロフィルa(P680)を結合し、プラストキノン結合部位も持ち、チロシン残基(TyrZ)は、さらにC末端側に構築される酸素発生反応の触媒中心であるマンガンクラスターへの電子伝達に関与しています。far-red 近赤外光(700-800nm)を利用できるシアノバクテリアには、chlorophyll f という特別なクロロフィルを持つものがあるそうですが、このシアのバクテリアが クロロフィル f を合成するには PsbA の遠いパラログにあたる蛋白質が必要で、この蛋白質が、マンガンクラスターは持ちませんが、光化学系II のような構造を作る事で、クロロフィルa を基質として、光還元反応によりクロロフィルfを合成できるようになっている、という事らしいです。まだ、アブストだけしか見れませんが、これもまた、進化の過程で生物が見せる柔軟性の一つの現われだと思いますね。論文データが楽しみですね! (M)

Gordon Research Conference: Mitochondria & Chloroplasts

2016 Mitochondria & Chloroplast Gordon Research Conference

Evolution, Biogenesis and Quality Control of Organelles of Endosymbiotic Origin’

at Mount Snow in Vermont (North-East of the US) during the week of Sunday June 19 – Friday June 24, 2016

http://www.grc.org/programs.aspx?id=11289

 もう1週間以上経ってしまいましたが。。。行ってきましたよ。ゴードン会議。内容は、、、ひ、み、つ、、、なので、一切話せませんが、面白かったですよ。本当に、この分野の大御所ばかりの前で講演するのは冷や汗ものでしたが、また、我々のデータを印象付けるいい機会だったと思います。ゴードン会議とはいえ、宿舎は、大学の寮ではなくてリゾートホテル。雪があれば尚いいところでしたが、好天に恵まれ、非常に快適にすごせました。この分野の最先端の話を沢山聴けて、ホテルに缶詰の、まさに勉強漬けの1週間でした。二年後は、イタリア Il Ciocco!!

http://www.marriott.co.jp/hotels/travel/lcvbr-renaissance-tuscany-il-ciocco-resort-and-spa/?pid=corptbta&scid=b661a3c4-9c47-48c8-9e13-75b66089dd79

ここは以前行った事がありますが、また必ず行こう!って思いましたね。 (M)

学会会場となったホテル(Mount Snow)

Amyloid-β peptide protects against microbial infection in mouse and worm models of Alzheimer’s disease

Deepak Kumar Vitaya Kumar et al.

Science Translational Medicine (2016) 25 May
Vol. 8, Issue 340, pp. 340ra72, DOI: 10.1126/scitranslmed.aaf1059

http://stm.sciencemag.org/content/8/340/340ra72.abstract

 普段あまり見ない雑誌ですが、Science のウェブサイトで Editor’s Picks として紹介されていた論文。ええっ!えええっ!と、思う論文です。アミロイドベータペプチド(Aβ)は、アミロイド前駆体蛋白質から生じる42(もしくは40)アミノ酸残基のペプチドで、これが凝集しアミロイドを形成して脳に蓄積すると神経細胞が変性してアルツハイマー型痴呆を引き起こすと言われています。ところが、このペプチド、進化的に非常に良く保存されています。例えば、ヒトのAβ42のアミノ酸配列は、何と4億年前に分岐した筈のシーラカンス(!)と全く同じです。では、このペプチド、アルツハイマーを引き起こす負の側面しか持たないのでしょうか?そんなものが、進化的に捨てられずに保存されているなんて。。。考えてみれば不思議ですね。この論文では、マウスや線虫のモデル系を使った実験で、Aβペプチドが、ある種の感染を防ぐantimicrobial 活性を持つのでは、と提唱しています。可溶性のAβペプチドが、病原菌の細胞壁に結合することで、ホストの細胞に取り付くのを防ぎ、さらに、病原菌上でアミロイド繊維を形成することで、病原菌を捕捉してしまうというわけです。なるほど、だとすると、”わるもん”ではなく、”いいもん”なのかも。。。Editorの紹介記事のタイトルも、”Rehabilitation of a β-amyloid bad boy”。頷けますね。(M)

Translation readthrough mitigation

Joshua A. Arribere, Elif S. Cenik, Nimit Jain, Gaelen T. Hess, Cameron H. Lee, Michael C. Bassik & Andrew Z. Fire

Nature (2016) doi:10.1038/nature18308. Published online 01 June 2016

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature18308.html

 “mitigation”とは緩和、軽減のこと。mRNA からタンパク質の翻訳はリボソーム上で行われ、通常ストップコドンのところで翻訳は終結します。しかし、稀に Translation readthrough という現象が起きて、つまり、ストップコドンを、パーフェクトマッチではないアミノアシルtRNAが認識して、読み枠はそのまま、3’UTRまで翻訳を続けてしまう事があります。このような場合、次のストップコドンが出てくるまで翻訳は続くわけですが、本来のタンパク質のC末端に余分な配列がついているわけですから、機能できないだけでなく、細胞にとって害になる場合もあります。著者らは、readthrough で読まれるストップコドン下流のフレームには、それが付加された場合に、タンパク質を不安定化させるような(例えば分解系に回されやすいような)配列がコードされているのではないかとの作業仮設を立てて、検証実験をしています。面白い事、考え付くなぁ〜。このアイデアが出てきたところが、この研究のキーポイントですね。一旦、アイデアが出ると、例えば、本来のストップコドンに変異を入れてみたり、下流の配列を別のタンパク質に付加したり等々、いろいろ実験のアイデアが出てきます。下流の塩基配列をランダムにシャッフリングして偶然生じる読み枠の付加配列と比較して、線虫やヒトの3’UTRの読み枠にコードされる配列には、有為な傾向があるとの事。本当なら、すごいですね。(M)